「決意の晩餐」

「お帰りなさい。今日は遅かったのね。」

玄関を開くと、そこには聴きなれた声が返ってきた。

「ただいま。雅さん。」

そう、この方は早瀬 雅さんである。

母方のいとこで、大学のためにこっちに出てきているため、ウチに下宿しているのである。

大学は午前だけある心理学系の大学で、主に子供などの心理を学んでいるとか。

将来をじっくり見極めている人でもある。

でも、家ではそんなそぶりをせずに、家事手伝いをしている。

「学校で何かあったの?」

家にいるときに、一番に話すのは、雅さんである。

前にも言ったように、うちの両親は仕事が忙しいため、帰ってくるのが遅い。

でも決め事で、どうしてもがない限り、必ず晩御飯には帰ってくるのだ。

「うん。先生と話をね。ちょっと話を聞いたんだ。」

「へぇー。圭介さんが話とは、それは面白い話なんでしょうね。」

「そう、聴こえますか。」

「ええ。圭介さんって、あまりそういう話しないでしょ。だから、自然にそう感じ取れる話ならそれだけ興味があるってことなのよ。」

「なるほど。では、その話は夕食のときにでもすることにします。」

さすがは雅さんだ。ちょっとした心境も、見抜かれてしまった。

「それでは、部屋にいますので、用がありましたら呼んでください。」

「それじゃ、私は夕食をつくりますね。話が楽しみです。」

そういって、彼女はキッチンのほうに向かった。


自分の部屋にきた。

机の上にカバンを置くと、とりあえずカバンの整理を行うことにした。

今日使った、教科書、ノートはとりあえずカバンから出して机の本棚に。

出された課題はとりあえず机の上。

そして、今日もらったファイル

「夕食まで時間もあるし、内容もまだ全部は把握していない、ゆっくり読み直すか。」

ファイルを手にしてベットに寝転がった。

そして、ファイルを開く。

内容はそう面倒なものではなかった。

田舎の私立の高等学校に6月始めからから10月の終わりまで転校する事らしい。

住む場所は一軒家で、家賃など入らないが、ある程度の生活用品は自分でまかなわなければいけないらしい。

食事も自炊だ。

田舎での生活は、一軒家に住む以外、何をやってもとりとめはないらしい。

しかし、良心の範囲と、いう注意が書き付けられていた。

「かなり、自由だな。」

第一印象はそうだった。

いままでは、そんなに自由な考え方をしたことはなかった。

別にそこまで、押さえつける必要はなかったが、自分が勝手にそういう風になっていた。

たぶん、親がしっかりものだった性か、自分をそうやって思いつけていたかもしれない。

「まあ、環境が変われば、自分も何かできるようになるだろう。」

自分にそう言い聞かせ、夕食までそのファイルを読み返していた。


「圭祐さん。夕食ですよ。」

自分の部屋に戻って、一時間ぐらい立ったぐらいに、雅さんが呼んだ。

時計を見ると、もう六時半を指していた。

夕食を取るにはいい時間である。

「はーい。今行きます。」

僕はさっきのファイルを持って、部屋を出た。


食堂には僕の両親と雅さんがもう席に座って待っていた。

食卓の上には、ご飯、おみそ汁、野菜炒め、餃子が並んでいる。

「ただいま。圭祐」

「おかえりなさい。昇さん。陽美さん。」

僕は両親を、父さん、母さんと呼ばずに、名前で呼んでいる。

それは、尊敬でもあり、自分への皮肉だった。

両親は小さな建設会社を経営している。

依頼もなかなかで、好評の評判が続くので、連日クライアントの依頼が殺到しているらしい。

そんな中でも、家族を大事に思い、外せない用事が無い限り、夕食には必ず帰って来ている。

ここまで完璧な両親は、世界探してもそんなにいないだろう。

「そういえば、雅ちゃんから聞いたが、なにか話すことがあるみたいですね。」

陽美さんが夕食を食べる手を休めてたずねて来た。

「ええ。実は学校側から、転校をして見ないかと、提案があったんですよ。」

それを聞いた、昇さんと陽美さんはちょっとだけ動揺していた。

「学校で何かあったのか?」

すかさず、昇さんが問いかけてきた。

「いや、悪い意味ではないんですよ。教育の一環で、学校の生徒を交換して異なった環境で自分の長所を延ばしていこう。と、言う意味なんですよ。それに、僕が選ばれたみたいです。」

「そうだったの。転校って聞いたから、ちょっと心配してしまいました。」

「私はそんな気はなかったですよ。圭祐さんですし。間違ったことはするとは思ってませんからね。」

ちょっと、心配目だった陽美さんを横目に雅さんは落ち着いている様子だった。

「そこで。保護者の承諾が必要なのですが、お願いできないでしょうか。」

昇さんは少し不安だった顔を直して。

「行ってきなさい。おまえの一度の人生だ。やりたいことをやればいい。」

「わたしも、賛成よ。でも、そのファイル私にも見せてね。」

陽美さんも喜んで了承してくれた。

「よかったわね。圭祐さん。これであなたも一歩踏み出せたのね。」

雅さんもお祝いしてくれた。

そうして、僕の手の輝きは少しずつ形付け始めた。


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