「始まりのファイル。」
キーンコーンカーンコーン
放課後を告げるチャイムが鳴り響いた。
「今日も終わりか。」
そう言って帰り支度を始めた。
使い慣れた教科書、端が汚れているノート、ところどころに傷のある筆箱
それをカバンに積めていった。
変わりの無い日常それが今の僕だった。
別に変わりたいとも思もわなかった。
今ここにいる自分、別にそれ以上でもそれ以下でも無かったからである。
カバンに荷物を詰め込み帰ろうとした時であった。
「ちょっといいかしら?」
声をかけてきたのは担任の佐々木このはだった。
「どうかしましたか?」
「ええ、君にちょっと話があるのよ。」
「そうですか、話の続きをどうぞ。」
「ごめんね。先生これから会議があるのよ。それにここじゃ何だから屋上でも行っててくれ無いかな。」
このあとは、家に帰って夕食まで寝る予定だったし、しなければいけない課題は30分ぐらいでできるので問題は無かった。
「分かりました。では屋上で。」
そう言って僕は、教室から屋上に移動した。
もうすぐ夕暮れを迎えそうな空は赤くなっている所だった。
屋上に来たものの先生が来るまでは、することが無かった。
カバンをベンチの所において、フェンスに寄りかかりグラウンドを見下ろした。
グラウンドでは部活動の連中が汗水流して一生懸命部活を楽しんでいた。
しかし、自分にはそんな経験はほとんど無かった。
あまり自己主張をしない性格でおとなしい性格だったからだ。
別に回りはそんな風になるような教養はしなかった。
自分でそんな自分をつくってしまったからであった。
ただ、そこにいるだけの自分
感情もあまり出さずに、与えられた物事だけをただ進めているだけ。
「無機質みたい...」
そんなこと言われたこともあった。
「ごめんね。待たせて。」
屋上に続く階段から、このはの声がした。
「いえ、それより話って何ですか?」
「せっかちね。その前にどう、一服しない?」
と、言って彼女はグラウディーの缶コーヒー「BREAK」を取り出した。
「いただきます。」
僕は受け取り。少しだけ飲んだ。
このははシェルの「甘党紅茶」を飲んでいた。
「学校っておもしろい?」
不意にこのはが尋ねて来た。
「僕にとって学校はおもしろいおもしろくない前に、勉強としての義務しか感じてませんね。」
「勉強だけなら、高校なんだし義務教育終わって別にこなくていいのに」
「学歴は大切ですから...。」
そうしか言い返せなかった。
自分はここに勉強に来ているだけ。
良い成績で、いい内申をもらって、これからに役立てて行くだけの中間点。
それだけのことだったから。
「おもしろみが無いわね。わたしだったら窮屈でたまんない。もっと楽しいこと考えるわよ。」
「別にそんなこと必要ありません。高校なんて単なる通過点に過ぎないから。」
「単なる通過点? それじゃ聴くけど、あなたにとって終点って何?」
「それは...。」
答えれなかった。
なぜだろう、何か足りないように感じた。
「答えられないって事は。理解できて無いって事になるわね。いいのよ。理解なんてできなくって。私だって理解で来て無いんだから。でも、これで自分に何か足りないことが理解できたでしょ。」
「なんとなくですけどね。」
そういって、残りのコーヒーを飲み干した。
「そこで、さっきの話なんだけれど、転校して見ない?」
「転校ですか...。」
正直耳を疑った。何の根拠もなしに転校を提案されるなんて。
「もしかして、僕は何か学校に悪影響を起こすようなことをしましたか?」
単刀直入にこのはに問った。
「いやいや。その逆。うちの学校とね、その転校先の学校で交換転校を行おうと考えてるの。」
「交換転校?」
「交換留学の国内版だと思ってくれていいわ。それで、その役目をあなた。そう豊見山圭祐君。あなたにやってもらうことになったの。待たせたのもこれに関する会議のせいよ。」
「僕何かでいいんでしょうか。こんな感情も薄く。子の学校で一番影が薄い人間がそんな所言って。逆に子の学校の評価を下げることになりますよ。」
「そんなことないわよ。あなたは優秀よ。だけどそのために犠牲にした物があったの。それをこれで見つめ直してほしいの。」
「そうですか。では、その役目引き受けましょう。」
それを聞くと、このはは甘党紅茶を飲み干して。もっていたバインダーから数枚の資料を挟んだファイルを手渡して来た。
「それに、詳しいことがかいてあるから読んでみるといいわ。それにこれの実行には、保護者の承認が必要だから。」
「わかりました。それでは、失礼します。」
そのファイルをカバンに詰めて。帰り始めた。
「新しい自分を見つけてね。」
後ろからこのはの声が聞こえた...
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